浮き布池の想い出

 私が子供のころ、家の中にいるのは大雨や大風の日、
あるいは風邪をひいてうなっているときくらいなもので
た。
遊び場所はとても多く、田んぼのあぜや野山、そして
小川や池と事欠くことがなかったのです。外での遊び
の中で、とりわけ夢中になったのがドジョウすくいです。
正直に言いますと、これは小遣い銭稼ぎのアルバイト
でした。「小学生がドジョウで金儲け?」と、言っても40
数年も前のことですし、鉛筆くらいは自分のお金で買い
たいとの考えからだったのです。
実は、ドジョウは、「延縄漁」に使う人のためのものでし
た。延縄漁と聞くと、海の漁業と思われるでしょうが、行
われたのは本格的なものではなく、延縄に似せた釣り
でした。場所は三瓶山さん麓の「浮き布池」です。この
池は、万葉歌人である柿本人麻呂が訪れたといわれる、
周囲約2キロばかりの池で、観光客が訪れたり、地元の
田畑を潤す水瓶としても知られています。
ドジョウを買い取ってくれた人の目当ての獲物はスッポンで、長さが百メートルほどの糸を岸から対岸に張り、それに数十本の釣り糸を垂らした先にドジョウを餌としてつけました。そのため、沢山のドジョウが必要で、私ら子どもにとっては結構な収入になりました。確かな記憶ではありませんが、体長が10pほどにもなるものは1匹が1円くらいだったように思います。もっとも、100円ほども受け取ると、うれしさだけが先に立ち、1円の餌で釣れたスッポンがいくらで売れたのか、などは頭になかったことは確かです。あれから40数年。なじみ深い池で、一本釣りの釣り糸でさえ垂れている人は少なくなりました。もちろん、延縄漁の光景に出合ったことも、ドジョウを追う子どもたちの姿を目にすることも、一度もありませんが、沢山の想い出をくれた池や小川が今も大好きです。
このコラムは、サンベ フィールドミュジアム ニュース からの転記です
(写真・文 管理人) 内容は、一部変更しています 
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